バミューダトライアングルは本当に船が消えるのか、統計と海の仕組み

深海・自然

大西洋のとある海域では、船や飛行機が跡形もなく消えてしまう。そう語られる「バミューダトライアングル」は、都市伝説のなかでも特に有名な存在です。フロリダ半島、バミューダ諸島、プエルトリコを結んだ三角形の海域で、100年ほどの間に多くの船と飛行機が消息を絶ったとされ、「魔の海域」の異名までついています。

では、本当にこの海域では、よその海より船や飛行機が消えているのでしょうか。この記事では、伝説の元になった有名な事件と、アメリカ沿岸警備隊や保険組合が出した「統計の答え」、そして「消えたように見える」海の仕組みを、順番に見ていきます。結論を先に少しだけ言うと、数字の上では意外な結果が出ています。

バミューダトライアングルとは、そもそもどこなのか

バミューダトライアングルは、大西洋の西部、マイアミ(アメリカ・フロリダ州)、バミューダ諸島、プエルトリコのサンファンを結んだ三角形の海域を指す呼び名です。ただし、ここが大事なところですが、これは公的な地名ではありません。アメリカの地名委員会はこの名前を公式には認めておらず、境界線が引かれた公式の地図も存在しません。本によって三角形の大きさが違うのは、そのためです。

この呼び名が広まったのは、比較的最近のことです。1964年、作家のヴィンセント・ガディスが雑誌「アーゴシー」に「死のバミューダトライアングル」という記事を書いたのが、名前の始まりとされています。そして1974年、チャールズ・バーリッツの著書「バミューダ・トライアングル」がベストセラーになり、伝説は世界中に広がりました。僕が面白いと思うのは、海の謎そのものより、この「名前がついた途端に、別々の事故が1つの物語に束ねられた」という広まり方です。

確認できていること:アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、バミューダトライアングルという名称はアメリカ地名委員会に公式名として認められておらず、境界を示す公式の地図もありません。また、ほかの交通量の多い大きな海域と比べて、この海域で不可解な失踪が頻繁に起きているという証拠はない、とNOAAは明記しています。

伝説を作った2つの事件

306人が消えた船、サイクロプス号(1918年)

伝説の土台の1つが、第一次世界大戦中の1918年に起きた、アメリカ海軍の給炭艦サイクロプス号の失踪です。1918年3月4日、サイクロプス号はマンガン鉱石およそ10,800トンを積み、乗員と乗客あわせて306人を乗せて、バルバドスからアメリカのボルチモアへ向けて出港しました。ところが、そのまま二度と姿を見せることはありませんでした。救難信号はなく、残骸も1つも見つかっていません。

戦争中だったため、ドイツの潜水艦に沈められたのではないかとも言われましたが、戦後に調べられたドイツ側の記録には、サイクロプス号に関する記述はありませんでした。アメリカ海軍の歴史部門は「予期せぬ嵐で沈んだのだろう」としつつも、最終的な原因は不明のままとしています。306人という人数は、アメリカ海軍史上、戦闘以外では最大級の人命損失です。100年以上たった今も船体は見つかっておらず、この「何も残らなかった」感じが、伝説に強い印象を与えたのは間違いないと思います。

5機まとめて帰らなかった、フライト19(1945年)

もう1つの代表格が、1945年12月5日の「フライト19」です。この日、フロリダ州フォートローダーデールの海軍基地から、TBMアベンジャー雷撃機5機が航法訓練のため飛び立ちました。指揮をとるのは、経験豊富なチャールズ・テイラー大尉。ところが訓練の後半、テイラー大尉から「羅針盤がおかしい」「位置が分からない」という趣旨の無線が入ります。彼は自分たちがフロリダキーズ付近にいると思い込んでいましたが、実際はバハマ付近にいて、その思い込みのまま進路をとったため、編隊は陸地から離れる方向へ進んでいったとされています。

やがて燃料が尽きかけ、夕闇の海へ不時着水するしかない、という無線を最後に、5機14人の消息は絶えました。さらに悪いことに、捜索に出たPBMマリナー飛行艇までもが、乗員13人を乗せたまま行方不明になります(こちらの機体は、燃料の蒸気に引火して爆発した可能性が高いとされています)。5日間にわたって25万平方マイル以上が捜索されましたが、フライト19の機体も乗員も、かけら1つ見つかりませんでした。

確認できていること:アメリカ海軍の歴史資料によると、フライト19は1945年12月5日に5機14人で訓練飛行中に行方不明となり、編隊長の羅針盤の異常と位置の誤認が重なって燃料切れに至った、というのが調査の見方です。捜索機のマリナー飛行艇も13人とともに失われました。サイクロプス号については、1918年3月に306人を乗せて消息を絶ち、残骸は発見されておらず、ドイツ軍の関与を示す記録もなかったことが、海軍の歴史資料に残されています。

事故は本当に多いのか、統計と保険の答え

事件だけを並べると、たしかに恐ろしい海域に聞こえます。問題は「分母」です。この海域は、北米とカリブ海、ヨーロッパを結ぶ航路の要所で、世界でも船と飛行機の往来が多い場所の1つです。通る数が多ければ、事故の数も増えます。割合で見たらどうか、というのが統計の考え方です。

この点について、関係機関の答えはかなりはっきりしています。アメリカ沿岸警備隊は、長年の事故を検証しても「物理的な原因以外による事故を示すものは何も見つかっていない」とし、この海域を特別な危険区域とは認めていません。海の保険で有名なロイズ保険組合も、調査の結果「異常に多くの船が沈んでいるわけではない」とし、この海域を通る船に追加の保険料を課していません。お金を扱う保険会社が割増を取らない、というのは、かなり正直な答えだと僕は思います。

さらに2013年、世界自然保護基金(WWF)が発表した「世界の危険な海域トップ10」に、バミューダトライアングルの名前はありませんでした。オーストラリアの科学者カール・クルシェルニツキー氏も「失踪の割合は、ほかの海域と変わらない。数字は嘘をつかない」と繰り返し述べています。

確認できていること:アメリカ沿岸警備隊は、この海域の多数の事故・失踪を検証した結果、物理的な原因以外の要因は見つかっていないとしています。ロイズ保険組合はこの海域の損失率が異常に高いとは認めておらず、通過する船舶への保険料の割増も行っていません。WWFが2013年にまとめた世界の危険な海域の上位10か所にも、この海域は入っていません。

では、なぜ「消えた」ように見えるのか

統計で特別でないなら、なぜ「跡形もなく消えた」話がこれほど多いのか。理由はいくつか重なっています。

1つ目は、この海域そのものの性格です。ハリケーンや熱帯低気圧の通り道で、天気が急変しやすいこと。浅瀬やサンゴ礁が多いこと。そして、メキシコ湾流という非常に速い海流が流れていて、沈んだ船の破片や漂流物を、あっという間に遠くへ運び去ってしまうことです。残骸が見つからないのは、不思議な力のせいではなく、海流に流された結果、というわけです。

2つ目は、羅針盤の話です。この海域は、磁石の指す北(磁北)と本当の北(真北)がほぼ一致する、地球上でも珍しい場所の1つを通っています。昔の航法では、この差を計算に入れるかどうかで進路がずれかねず、航法ミスの一因になった可能性があります。フライト19の悲劇も、根っこは「人間が位置を見失う怖さ」だったと僕は思います。

3つ目は、伝説の作られ方です。1975年、ラリー・クッシェという調査家が、過去の資料を1件ずつ当たって検証した本「バミューダトライアングルの謎は解けた」を出版しました。それによると、有名な「謎の失踪」の中には、実は嵐の日の事故だったもの、三角形の外で起きたもの、後から話が大きくされていたものが、少なからず混ざっていたそうです。海底のメタンガスが噴き出して船を沈める、という説も語られますが、この海域で実際にそれが起きた証拠は確認されていません。

確認できていること:NOAAは、この海域の事故の多くは環境要因で説明できるとしています。大西洋の熱帯低気圧やハリケーンの大部分がこの海域を通ること、メキシコ湾流で天気が急変しやすいこと、浅い海域が多いこと、そして場所によって羅針盤が磁北ではなく真北を指すことがある、とNOAAの解説には書かれています。

おわりに

バミューダトライアングルについて、統計と公式見解をたどると、「この海域だけ特別に何かが消える」という証拠は出てきませんでした。サイクロプス号のような未解決の事件は確かに残っていますが、それは「説明のつかない力が働いた」という意味ではなく、「100年前の海では、証拠そのものが残らなかった」ということなのだと思います。

とはいえ、伝説が全部デタラメだったわけでもありません。実際に多くの人がこの海で命を落としていて、事件そのものは本当です。伝説が膨らんだのは、その1件1件の重さと、「名前のついた三角形」という分かりやすい型があったからでしょう。謎の正体は、海ではなく、物語の広まり方の方にあった。僕は今回調べてみて、そういう結論になりました。

僕のひとりごと

いやあ、しかし、ですよ。僕は子どもの頃、この手の話が大好きでした。「バミューダトライアングル」という言葉を聞くだけで、地図帳を開いて、フロリダとバミューダとプエルトリコを指で結んで、「この中に入ったら消えるのか……」と真剣に怖がっていたものです。大人になった今、その三角形が「公式には存在しない線」だったと知って、ちょっとした裏切られ感と、妙な納得感が同時に来ました。

今回いちばん「大人だなあ」と思ったのは、ロイズ保険組合の態度です。だって考えてみてください。もしこの海域が本当に船を飲み込む場所だったら、真っ先に損をするのは保険会社です。彼らは怖い話には1円も払いませんが、リスクには正直です。その保険会社が「割増なしでどうぞ」と言っている。これはもう、どんな心霊特集よりも説得力がある気がします。幽霊より保険料。現実はシビアです。

でも、僕はこの伝説が嫌いになれません。フライト19の最後の無線とか、サイクロプス号の「何も見つからなかった」という記録を読むと、統計の話とは別に、背筋が少し伸びます。今の時代なら、GPSと衛星通信で位置は丸分かりで、「跡形もなく消える」こと自体が難しくなりました。つまり僕らは、「魔の海域」が成立する最後の時代の話を聞いているのかもしれません。謎が解けるのは良いことですけど、謎が成立しなくなるのは、少しだけ寂しい気もします。

さて、あなたはどう思いますか。バミューダトライアングルは、ただの「交通量の多い、天気の荒い海」だと思いますか。それとも、サイクロプス号のように説明の残る事件があるうちは、まだ何かあると思いますか。

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