長沼毅氏が語る極限環境生物と地球外生命、深海から宇宙への見方

「おもしろすぎて眠れなくなる深海の話」と題された動画で、極限環境生物学者の長沼毅さんが、深い海や過酷な環境にすむ生きもの、そして地球の外の生命について語っています。ここでは、動画で紹介されている見方を話題ごとにたどりながら、記録や研究報告で確かめられることを添えていきます。

光の届かない海底で、化学合成にたよるチューブワーム

この動画では、光の届かない深海には、光合成とは別の方法で命をつないでいる生きものがいると言っています。その代表として取り上げられているのがチューブワームです。

チューブワームは口も胃も持たず、体の中にすむ細菌が火山ガスのエネルギーを使って有機物をつくり、その細菌と共生することで生きている、という見方が紹介されています。

確認できていること:研究報告によると、熱水噴出孔のまわりにすむチューブワーム「リフティア・パキプティラ(Riftia pachyptila)」では、共生する細菌が「栄養体(トロフォソーム)」という器官に集まっていて、硫化水素などを酸化して得たエネルギーで炭素を固定しているとされています。光ではなく、化学物質のエネルギーを使って有機物をつくるこのしくみは、「化学合成」と呼ばれています。

熱水噴出孔のまわりにすむ、変わった目を持つエビ

この動画では、熱水噴出孔のまわりには、ほかの場所では見られない独自の生態系ができあがっていると言っています。その例として、後頭部に赤外線カメラのような目を持つエビが紹介されています。

確認できていること:1989年に学術誌『Nature』で報告された研究によると、大西洋中央海嶺の水深およそ3,600メートルの熱水域にすむエビ「リミカリス・エクソクラータ(Rimicaris exoculata)」は、外から見える目を持たないかわりに、背中側の透明な殻のすぐ下に、ロドプシンに似た色素を含む一対の器官を持っています。この器官は、熱水噴出孔のまわりのごく弱い光をとらえるための目ではないかと考えられています。

塩分や高い温度に強い微生物

この動画では、極限の環境に適応した微生物として、塩分の濃さが大きくちがう環境でも生きられる「ハロモナス・バリアビリス」が取り上げられています。

また、セ氏122度という、私たちから見るととても熱い環境でも増えることができる「メタノパイラス」も紹介されています。

確認できていること:2013年に学術誌『Applied and Environmental Microbiology』で発表された研究では、塩を出す木(タマリクス・アフィラ)の葉の上にできる水滴の中で、塩分の濃さにかかわらず、ハロモナス・バリアビリスが増える様子が観察されたと報告されています。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の2008年の発表によると、中央インド洋海嶺の「かいれい熱水フィールド」で見つかったメタン菌「メタノピルス・カンドレリ(Methanopyrus kandleri)」の116株は、高い水圧をかけた条件で、セ氏122度でも増えることが確かめられたとされています。

深海の底よりも強い圧力に耐える大腸菌

この動画では、地球でいちばん深い海の底よりも、はるかに強い圧力に耐える大腸菌が、選抜によって得られたと言っています。身近な細菌でも、思いがけない強さを身につけることがある、という見方として紹介されています。

確認できていること:アメリカ海洋大気庁(NOAA)によると、地球の海でいちばん深いとされるマリアナ海溝のチャレンジャー海淵は、深さがおよそ10,935メートルです。また、2011年に学術誌『mBio』で発表された研究では、高い圧力をかけて生き残った大腸菌を増やす手順をくり返したところ、もとの株が耐えられた600メガパスカル(およそ6千気圧)をこえて、2ギガパスカル(およそ2万気圧)の圧力でも生き残る株が得られたと報告されています。

原油の中で育つ石油バエ

この動画では、ふつうは生きものにとって有害な石油の中で、幼虫の時期を過ごす「石油バエ」も紹介されています。極限環境の生きもののなかでも、例外的な存在として取り上げられています。

確認できていること:石油バエ(学名 Helaeomyia petrolei)は、アメリカ・ロサンゼルス近くのラ・ブレア・タールピットの原油で見つかったハエで、幼虫は原油のたまりに捕まった虫などを食べて育つとされています。原油の中で育つことが知られている、ただひとつの昆虫とされています。

氷の下に海を持つ衛星、エウロパとエンケラドス

この動画では、深海のような極限環境が、地球の外で生命を探すときのモデルになると言っています。そのうえで、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスには、エネルギー、有機物、液体という生命の3つの条件がそろっている可能性が高い、という見方が紹介されています。

とくにエンケラドスについては、水やメタン、有機物が実際に見つかっていることが取り上げられています。

確認できていること:NASA(アメリカ航空宇宙局)は、生命に必要なものとして、液体の水、化学的な材料、エネルギーの3つを挙げています。NASAによると、エウロパの氷の下には、地球の海をすべて合わせたおよそ2倍の水をたたえる、塩分を含んだ海があると考えられています。エンケラドスでも氷の下に衛星全体をおおう海があるとされ、探査機カッシーニの観測からは、液体の水と岩石がセ氏90度をこえる温度で反応する場所でしかできないとされるシリカの微粒子が見つかり、海の底に熱水噴出孔がある可能性が示されています。

小惑星の試料とパンスペルミア仮説

この動画では、小惑星「リュウグウ」と「ベンヌ」から持ち帰られた試料から、DNAやRNAの材料となる5種類の核酸塩基がすべて見つかったことが取り上げられています。

そして、この発見によって、生命の材料が宇宙から運ばれてきたとする「パンスペルミア仮説」の現実味が増している、という見方が紹介されています。

確認できていること:NASAの2025年1月の発表によると、探査機オシリス・レックスが2023年に持ち帰ったベンヌの試料からは、5種類の核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル)と、タンパク質をつくる20種類のアミノ酸のうち14種類が見つかりましたが、見つかったのは生命そのものではなく、生命の材料とされています。リュウグウについては、「はやぶさ2」が持ち帰った2点の試料の両方から5種類の核酸塩基が見つかったことが、2026年3月に学術誌『Nature Astronomy』で発表されています。パンスペルミア説は、スウェーデンの物理化学者アレニウスが1903年に唱えた考え方とされています。

エントロピーから見た生命のすがた

この動画では、長沼さんが生命を物理学の視点からもとらえていることが紹介されています。宇宙は乱雑さが増していく「エントロピー増大」の原理にしたがっているけれども、生命は自分の形を保ち、それを次の世代へとつないでいくという点で、局所的にその流れに逆らっている、めずらしい存在だという見方です。

確認できていること:物理学者のシュレーディンガーは、1944年の著書『生命とは何か』の中で、「生物体は負のエントロピーを食べて生きている」と述べたことで知られています。

地球の外からの便りを待つ探究

この動画では、宇宙にはまだ多くの可能性が眠っていて、明日にも地球の外から電波のメッセージが届くかもしれない、という期待を持ちながら人類は探究を続けている、という見方が紹介されています。

確認できていること:電波を使って地球外の知的生命を探す研究(SETI)は、1960年4月から7月にかけて、天文学者フランク・ドレイクがアメリカ・ウェストバージニア州グリーンバンクの国立電波天文台で行った「オズマ計画」から始まったとされています。このときは、およそ11光年離れたくじら座タウ星とエリダヌス座イプシロン星に向けて観測が行われましたが、地球外からの信号は見つかりませんでした。

おわりに

深い海の底と遠い宇宙は、ずいぶん離れた場所のように思えますが、この動画では、その二つを生命というひとつの糸でつなげて考える見方が語られています。こうした見方にふれると、身近な生きものや夜空が、これまでとは少しちがって見えてくるかもしれません。

参考情報

コメント

📖目次
タイトルとURLをコピーしました